日本市場で近年、ロイヤル・エンフィールド(Rエンフィールド)の販売が拡大している。輸入メーカー子会社の日本法人ではないインポーターで、年間販売1000台以上を上げ毎年成長させてきた。輸入元ピーシーアイ株式会社(PCI)のセールス&マーケティングの小松雅人・副部長に、Rエンフィールドの躍進の背景、さらに一段の成長についての考えを取材した。
日本自動車輸入組合がまとめるRエンフィールドの日本での販売は2023年に1162台、今年11月までの累計ではさらに前年同期13.6%の増加で1457台を上げている。多くのバイク業界の関係者でも、これまではコロナでバイク需要が高まったため、中型車クラスでは比較的に安価だからなどと考える者も少なくないだろう。しかし、コロナも収縮し多くのメーカーが停滞する中で、Rエンフィールドは急成長し今年も成長を遂げている。
PCIは、株式市場に上場する四輪関連のVTホールディングス株式会社(名古屋市中区)の子会社。これまでにPCIは四輪ではサーブブランドの輸入総代理店、日本から撤退したフォードの部品供給、モーターサイクルではノートンなど輸入元として展開、2020年5月にRエンフィールド正規輸入販売元のインポーターとして日本での普及に取り組んできた。
近年、日本でのRエンフィールドの成長ぶりは、VTホールディングスによる経営基盤があることで、ブランド展開への意識の高さを挙げている。通常、インポーターの場合は、販売ディーラーからの受注後に本国のメーカーに発注することが少なくない。小松副部長は「当社は経営基盤が比較的にしっかりしており、在庫を持った上でディーラーとエンドユーザーに製品が提供できる。アフターパーツも豊富に在庫を用意しており、即時に出荷できる体制にある」と強調する。
こうした経営基盤をバックに、ディーラーの開拓を積極的に展開。さらに同社は、国土交通省が定める輸入自動車特別取扱い制度のPHP(プレファレンシャル・ハンドリング・プロシージャー)という、1車種につき年間5000台を上限に簡素な書類審査で日本市場での販売が許可される輸入自動車優遇措置を350㏄モデルで取得するなど、コストをかけることで製品の提供、流通のスピードを上げている。こうした取り組みからも、同社では年間の目標は「1000台レベルでは考えていません」と高い成長を目標に挙げる。
ただ、過去の輸入車販売の経緯からは、日本でのインポーターにより販売が拡大することで、多くの海外メーカーが日本市場に100%の子会社販社を開設し直接参入してきている。こうした懸念はについて同社では「Rエンフィールド社は、海外市場での販売の増減を見越し、直接、販売での海外市場進出は避けている」としている。
市場各国の法的な理由もあるだろうが「アジア・パシフィック市場で直視の販社は開設されていません。直視の販売子会社は米国のみで、タイにある海外生産工場と英国の開発センター、ブラジル工場のみとなっています」とし、本国では各市場でインポーターとしてのディストリビューターによるビジネス展開を重視しているとしている。資金力があるインポートに任せた方が、効率が良いという判断のようだ。
日本での成長は、本国インドでの生産体制も起因する。PCIでは「Rエンフィールドの生産能力は年間120万台が可能です」と生産能力を挙げており「しかも、生産は中型車に絞られていることで、さらに生産力が高い。今年秋以降でも新型4モデルを発表しています」と述べ、日本メーカーを超える規模、設備といえるほどの生産工場を持つとしている。規模のほかにも品質管理でも「日本人の生産スタッフが品質管理に就いています。また、生産での日本への入荷の遅れもこれまでになく、毎月の発注も2ヵ月後には入荷されます」と、安心して日本で提供できるという。
その一方では、インド本国のトップや各分野の担当スタッフらは、来日の際「必ず日本のディーラーを訪問しています。ディーラーの状況や経営者らの意見に耳を傾け、市場の状況に注力しており、店頭で収益が上げられているかなどを考慮して視ています。したがって、本国から計画以上の追加台数や、一方的な台数注文の要求などはありません」と述べており、日本での流通でもPCIからディーラーに対して、適正な台数の出荷が行われ、店頭での在庫過多が避けられ、在庫のコントロールが容易な状態になっているとしている。
インド本国ではメーカーとしての本社機能、オペレーション、生産などのほか、各市場、流通、ディーラーの状況など、生産から販売まで自らのビジネスが良好に進むための考えや、基本を押さえているなどとしている。こうした本国の体制が日本での流通に大きく影響していることを挙げる。
一方で、日本での成長は、PCIによるショールーム開設も大きく効果を上げた。現在、ショールームはディーラーに販売拠点として譲渡したが、当初開設したショールームは成果を上げたとする。同社は四輪でのブランド展開のノウハウがることで、ショールーム開設によりブランドの世界観の演出が重要であることを挙げている。Rエンフィールドの世界観をユーザーに伝えることで、ユーザーに購入後のイメージを共感してもらえ、購入意欲の向上にもつながるからだ。
現在、東京・杉並区でショールームを運営する同ディーラーは、それまで東京・八王子にあるカスタム関連の販売店で、新車販売の経験はなくRエンフィールドが新車販売の初となるディーラー。だが、同店舗はそれまで全国で最もRエンフィールドを販売。新車販売の経験がないだけに、謙虚に取り組んでくれたことがプラスに働いたとしている。
さらに基本的に並売ディーラーが多いが、ショールームを開設していたことで、店舗内のスペース割合をRエンフィールド専用コーナーのスペースを増やしたディーラーも増えたとする。こうした店舗ではショールーム同様に、自らがRエンフィールドの世界観を演出する展示にするなど、自主的に取り組むディーラーが拡大したこともプラスに働いた。
ショールームでのRエンフィールドの世界観の演出は、女性ユーザーの獲得に一役買った。明確に女性ユーザーの購入者割合は明かしていないものの「ディーラー店頭での感覚でも1台目の車両として購入する女性ユーザーは非常に多い」ことを強調する。「女性ユーザーは、全体の販売のうち、限りなく1割に届いているのではないか」と女性からの支持の高さを挙げる。女性ユーザーはSNSでの発信も比較的に活発なことで、SNS情報によりさらに女性からの支持が集まっていることにも注目される。
日本での販売ディーラーは現在、全国に39拠点(2024年11月末現在)。将来的には首都圏は複数でも各県に1拠点を目安に開設したい考えだ。ただ、やみくもに店舗を増やすのではなく、今後は「来店したお客様に、がっかりさせない、失望させないような店舗」としており、質の向上に取り組みたい考え。それにはPCI自社体制もセールス専門チームとマーケティング選任を分けて、各自が仕事に専念できる体制を強化。セールスではディーラーと「どうしたら拡販できるか」などのコミュニケーションを高め、ともに成長を見出していきたいと述べている。
同社では今後、各県に1拠点のディーラー開設を目指し、製品の供給は店頭在庫を適正にコントロールしながら売れる環境づくりと、Rエンフィールドの中古車流通でも相場を維持できるように買い替えの発生を高めて、新車と中古の好循環を高めたい考えだ。特に「現在、各ディーラーが自主的に定価販売を展開し、確実に収益を上げていこうとする考えがディーラー間で浸透しています」という。どの店舗でも収益を上げていくことで、ユーザーへ質の高いサービスが提供でき、中古車相場も意識、共有されているとことを強調する。こうしたディーラー意識が重要な要素として注目できる。
同社では「定期的にディーラーミーティングを開催しています。直接、ディーラーの経営者同士が顔を合わせることで価格維持、確実な利益確保も互いに意識されています」とミーティングの重要性を挙げる。利益を上げねば、ユーザーのバイクライフやサービスにを提供できないということだ。過去のバイク業界の価格競争での勝者は存在しないことを意味する。
アフターマーケットでもRエンフィールドの展開では、昨今では当初販売した車両も車検が到来し始め、毎年、車検の発生が拡大する。人手不足が懸念されるディーラーも少なくないことから、同社は「アフターサービスディーラーの展開も拡大していきます。車両の販売は行わずアフターサービスを専門に提供するネットワークです。すでに4拠点開設し今後拡大していきたい」としており、車両販売ディーラーの人手不足の支援にも積極的だ。
他方では「来春には3モデルの新型を発売予定で、全9モデルの製品構成で充実します。お客様にがっかりさせないためにも、店舗にはコーナーを設けて世界観を演出してもらい、各モデルを見て試乗できる体制、お客様が購入後、Rエンフィールドの世界観を共有し楽しんでもらえることが重要」としている。