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【特集・インタビュー】バイク市場、流通格差  根本は「工賃レバレートに問題」 ㈲ライダースクラブ/吉田祐介・社長

【特集・インタビュー】バイク市場、流通格差  根本は「工賃レバレートに問題」 ㈲ライダースクラブ/吉田祐介・社長

2022.09.14

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【特集・インタビュー】バイク市場、流通格差  根本は「工賃レバレートに問題」 ㈲ライダースクラブ/吉田祐介・社長

バイクの市場と流通は、これまでに経験がない状態が続いている。今年も高いバイク需要の一方で、新車の出荷台数は全体で拡大しているものの、多くのバイク販売店では新車入荷の滞りが続き、販売店である流通段階で格差が広がる。専売店「カワサキプラザ千葉桜木」「ドゥカティ千葉セントラル」を運営するディーラー、㈲ライダースクラブの吉田祐介・社長に、現在の販売環境をどの様にみているのか。さらに今後の販売店の在り方や展開などについて聞いた。

 

 

――販売の立場から、今年の市場をどの様に捉えていますか。

「新車販売ディーラーの立場を前提としていうと、昨年から引き続き需要過多であると思います。同時に車両の供給が間に合っていない状態です。モデルによると思いますが、コロナによる半導体不足や流通の問題が影響しているのでしょう。ただ、新車販売では堅調に販売でき、引き続きニーズはあると考えています。

 

 

堅調な販売が上げられたことについては、昨今のメーカー主導による販売網の整備なのか、業界全体の需要なのか、解り兼ねるところです。それゆえに今後、懸念しているところでもあります。ただ、メーカーの専売店ネットワークはコロナによる市場の変化に、うまく対応できて悪くはないタイミングでスタートし、お客様の層も大きく変わりました」

 

 

――今年の入荷状況や販売については。

「メーカーも作れる車種とそうでない車種を選択し、効率の良い生産体制にしてくれたので、昨年のような問題は収まってきました。計画的に生産しつつも販売台数に注意してか、販売につなげるディーラーに新車が集中して集荷されているともいえなくありません。車両の遅延では販売店の自助努力や工夫も活発になり、メーカー専売店のディーラー間で、車両を共有するなど、お客様への供給を絶やさない仕組みの芽もでてきました。

 

 

弊社のセールスでは新車入荷の見込みが立たず、新型車や入荷が見込みづらい車両の問い合わせを受けても、お客様へ新たな提案や角度を変えて提案をすることで、店頭車両を販売する努力が功を奏しています。

 

 

そうしたことで当社の販売では、売上と利益ともに創業以来の過去最高を挙げることができました。今年下半期は、メーカー側でのこれまでの生産遅延に加え、排ガス規制により10月までの生産となる機種なども控え、入荷が抑えられそうです。下期の販売は入荷しだいとなります。しかし、お客様には申し訳ありませんが、常に注文を抱え得る状態で、ディーラーとしては悪くはない状態と受け止めています。

 

 

 

――過去最高の収益を上げたとしましたが、新車の入荷が計画に満たないとする場合、収益に影響するのでは。

「新車以外のその他の部門強化に努めています。特に営業の縁の下の力持ちとして活躍するサービス部門ですが、セールス部門と一丸となり売上や収益改善のため、システムの見直しやお客様への声がけ、呼び込み、カスタムの提案、消耗品交換の推奨など、基本に立ち返り地道な営業努力をしています。また、買取りも強化しています。現在の新車の入荷が限られ、この機会でないと取り組めない見直しや改善がたくさん浮き彫りになってきています。新車販売だけでなく、他の分野でもブラッシュアップすることで、今後一層の改善とプラスになります。

 

 

今に始まったことではありませんが、この機会にオートバイ業界全体を見渡した時に、ディーラーもメーカーなども収益構造の見直しを図るべきではないかと考えています。直近の問題では特にサービスメカニック不足が大変深刻な問題です。メカニックが貴重な人材であるならば、より高待遇、高給与で仕事に従事してもらうべきですが、多くの場合は実現できていません。根本はお客様から頂く1時間当たりの工賃レバレートに問題がるのではないかと考えています。

 

カワサキプラザ千葉桜木

ドゥカティ千葉セントラル

 

いまや高性能かつ繊細な電子制御システムも搭載されているバイクです。より高度かつ、ハイテクな設備、そして信頼できる技術を持っている販売店とそのサービスメカニックは、これまでよりも高単価、高賃金で働いてもらうべき仕事になっているといえます。現実は旧態依然の様に工賃を上げられないでいる販売店が少なくありません。その結果、メカニックの賃金も上げられずメカニック不足の悪循環にあります。つまり、お客様から頂く料金も現在より高額を頂き、高単価へと移行する必要があるのだと考えています。

 

 

しかし、単に高単価にするのではなく『単価を超える付加価値の提供』に取り組むべきでしょう。それが顧客満足度、リピートにつながり、生涯の顧客へと育てお客様と長期的な関係を築くことが一番大切な取り組みだと思います」

 

 

――実際に付加価値の提供についての取り組みは。

「私どもでは全国でも数社ほどしかない比較的に高い工賃設定になっていることが最近分かりました。この結果、受注件数が他のディーラーよりも少ないが、売上は高まっています。従って非常に効率の良い経営ができているといえます。当然、工賃が高額であると判断されるお客様もいらっしゃいますが、メカニックに負担をかけることなく、適正な料金を頂く一方で、しっかりとお客様へ料金以上に見合った、料金を超える付加価値を提供しようと取り組んでいます。

 

 

付加価値については、何ができるのかを、日々追求しているところでもあります。それが社員育成や設備投資なのか。突き詰めると人への投資に尽きるといっても過言ではありません。例えば、来店客に早く駆け寄り駐車場への車の誘導や『いらしゃいませ』『今日はどのようなご用件でしょうか』といった声がけだけでも、費用が掛からない付加価値です。また、点検や車検などで入庫頂いた車両は、洗車を無料サービスされる販売店が多いと思いますが、私どもでは有料で提供しています。お客様に有料であることを伝え、洗車実施の判断をゆだねることで、スタッフによけいな負担をかけることなく効率向上につながります。

 

 

その代わりに洗車は有料のため、お客様の想像を超える料金以上のクオリティで仕上げます。これにより多くの洗車依頼を頂いています。同時にスタッフもお金を頂く責任がかかってくるので、洗車とはいえ身を入れて行ってくれます。単に金額を上げるのではなく価格以上の価値を提供することが大切だと考えています。

 

 

店内のレイアウトでも多くの販売店は、主に車両を売ることが目的ですが、私どもは車両販売で利益を頂いていますが、お客様に『オートバイのある時間、オートバイのある生活』を提供、売っています。ですからトータルコーディネートでハードとソフトをお客様へ提案。車両のほかにもアパレルやカスタムパーツなどもご案内しています。

 

 

現在はメーカー系ディーラーの専売店化が進んでいますが、そうしたディーラーは皆、莫大な投資をしているので効率的に利益を高めた運営でなければ成り立ちません。だから日々どのように借り入れを返済していこうかとか、新しいサービスを提供しようかといった新しい取り組みが必要になり考えます。

 

 

こうした考えがモチベーションとしてディーラー間での格差、店舗のクオリティとして明確に表れていると感じています。投資や借入はある意味でモチベーションを高めるためにも必要でもあるのでしょう。店舗や設備、スタッフなどに投資しているディーラーのほとんどが、士気が高く社員育成にも取り組んでいることから、今後はさらに店舗間の格差が明確にあらわれると思います」

 

 

――ディーラーの立場から今後の市場について、どのようにみていますか。

「新車でいえば、各メーカーの生産計画あるいは、生産能力次第だと思います。市場は相変わらず需要過多の状態で推移するとみています。そうした時に、我々業界側の者が、どれだけの対応力や付加価値を高められるのか。そこが問われているし、大切なことだと思います。バイク業界は他業界と比較して接客スキル、社員教育、店舗スタイル、オンライン商談、システム構築、デジタル化などあらゆる面で後れを取っています。

 

 

逆をいえば、そうしたことではお客様の方が先を行っています。我々が経験していない、当たり前の世界を知っています。ゆえにさらに満足、納得していただけるような対応を追求しなければならないと思っています。

 

 

市場については決して悪い状況ではないと考えています。ただ、今年下期は現行車両に対する排ガス規制があるのでメーカーでは減産になり、これまでよりも出荷が減るのでしょう。販売サイドからすると、幸いお客様からの受注があるので悪くはありません。中古車についても、新車販売がうまく回転しなくなったらメーカーも一層認定中古車を強化するのでしょう。中古車も程度の良い良質車は高額で推移するでしょう。今は円安もあって中古車の輸出も高まっていると聞きますので、新車も中古車も値は比較的に上がる傾向にあると思います。

 

 

一方で、誤解を招くかもしれませんが、極端にいうと提供する側がお客様を選択する自由もあるのではないでしょうか。飲食店でも雰囲気やマナーを励行してもらうために、ドレスコードがあったり、高級四輪輸入車ディーラーでは一度車両を購入された既存客だけに限定して販売する車両があると聞きます。今の時代、新車ディーラーでしか購入できない車両があったり、販売店自体に限りがあったり、以前横行していた値引きが見込めない状況であれば、それ相応のお客さまを対象とするビジネスモデルがあっても良いと思います。それがバイク業界を守ることにつながり、メーカーは魅力あるモデルを作れる仕組みなのかもしれません。

 

 

ディーラーが高い収益を頂くことで、質の高い商品やサービスが提供でき、それはすべてお客様に還元されるわけです。良い意味で我々は値引きせずに商品やサービスを提供すること自体に、お客様を選んでいることにもなります。ですからオートバイファンを否定するわけではなく、販売側も対象とするお客様の層を選ぶと同時に、お客様も販売店を選ぶ時代だと考えています。お客様が選ぶ販売店や価格帯の車両を購入してもらえればよいのではないかと思います」

 

 

――今後の展開、新たな取り組みや施策については。

「来年3月予定で、新たに輸入車メーカーの専売店を茨城県の筑波に開設します。筑波は国や民間の研究機関、大学などが隣接し県が開発を進めている地域で、住宅地域も広げ都内の通勤圏となる土地柄です。新店舗の近隣はつくばエキスプレスの鉄道と駅があり、今後の開発予定地域。この一画に土地面積468坪(1547.1㎡)で、建築面積は約100坪(約330.6㎡)の平屋建てで計画しています。

 

 

私どもでは、魅力あふれる会社を目指しています。今年もおかげで5人のスタッフが加わりました。先にも挙げた、比較的に高い工賃、それにより質の高いサービス、高い付加価値を効率よくお客様に提供することが可能となります。同時にスタッフや店舗への投資ができ、社内に魅力があふれるように、また、スタッフに希望や将来性をみせていくことが将来にわたって重要であると考えています」(取材:鈴木香)

 

新店舗の開設予定地区(茨城県つくば市)

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