ヤマハ発動機は6月3日、国土交通省からの型式指定申請における不正行為の有無などについて調査指示を受け、社内の実態調査を行った結果、2つの認証試験で不適切事案が判明したと発表した。内容および今後の対応については5月31日に国土交通省に報告した。同社では重大に受け止め深く反省し、二度とこのような事態を引き起こすことがないよう再発防止を徹底する。先月より取り引きがある車両販売店では、ヤマハ発は一部車両を除いて全車種の出荷が停止となっているとしていたもの。
同社によると不適切事案の報告に伴い、現在出荷を停止している対象の車両および過去に出荷済みの車両に関しては、再試験の上、実際の使用に支障は生じないことを確認済みとしている。調査方法と結果では、今年2月から5月にかけて、過去10年間に認証試験を実施した者と申請書類を作成した者を対象に、不正行為に関与したり見聞きしたりしたことが無いかをアンケート方式で調査を実施。申請書類が認証試験の社内報告書をもとに正しく作成されていたかを確認するため、両書類を突合する調査を実施。さらに、疑義の生じた事案について関係者へのヒアリングなど行った。これらの調査は、独立性・中立性を担保するべく、当社の統合監査部主導のもとで、外部調査機関を使い実施したとしている。
その結果「騒音試験」で規定とは異なる条件で試験が行われていたという不適切な事案が確認されたもの。
また「警音器の音圧試験」において、試験を実施した車両以外の車台番号を記載して申請を行ったという不適切な事案が確認されたとしている。
対象製品については、関係当局と再試験や試験成績書の再提出などの対応手続きについての確認や相談などを適切に行った上で、必要な対応を行う。
不適切事案の内容と車種については、「騒音試験」での対象車両は「YZF-R1」(型式8BL-RN65J)で、2020年8月20日以降の販売中の車両1434台。事案はグラスウール製吸音材を使用した消音器(マフラー)を、通常路上で使用する状態にするコンディショニング(試験準備調整)を行うところを、コンディショニングの過程で熱によって試験器具が溶損する事態が生じたため、規定とは異なるエンジン出力でコンディショニングを行っていたもの。認証試験担当者は、グラスウール製吸音材の耐久劣化状態に影響を与えず、排気圧力・持続時間・試験サイクル数などの試験条件を満たす範囲であれば、試験機器の溶損を避けるためにエンジン出力を変更することは問題ないと誤った判断をしたもの。
なお、不適切な条件で実施した対象現行車種は、すべて規定どおりの条件で再試験を行ったところ、いずれも基準に適合していることを確認したという。また、対象製品は、現在出荷を停止。関係当局に再試験の試験成績書の提出・相談を行ったうえで必要な対応を行っていくとしている。出荷を停止している対象車両および過去に出荷済みの車両に関しては、実際の使用に支障を生じさせる事案は確認されていないという。
もう一つの事案「警音器の音圧試験」での対象車両は「YZF-R3」(型式EBL-RH07J)は2015年4月20日~17年7月(生産終了)に販売した3397台、同(同2BL-RH13J)の2018年1月20日~9月(生産終了)に販売した680台。「TMAX」(同2BL-SJ15J)の2017年4月7日~19年9月(生産終了)の1114台、同(同8BL-SJ19J)2020年5月8日~21年10月(生産終了)の849台。
警音器の音圧試験では、型式申請時に警音器およびその取り付け状態が同等である他の型式の試験結果を使用する際、本来は試験を行った車両の車台番号を申請書類に記載し、その車両と申請車両の性能が同じであることの宣言書(管理番号と申請車両の引当て表)を当局に提出すべきであったとしている。しかし、申請担当者は誤ったルールの理解により、引当て表を提出せず、かつ試験を行った車両の車台番号ではなく、申請する車両の車台番号を申請書類に記載して申請していたもの。
対象製品については、関係当局に相談を行ったうえで必要な対応を行っていく。また、対象の車両に関して、実際の使用における支障は無いものと理解しているとしている。
原因について同社では、騒音試験ではコンディショニングの条件を一部変更しても技術的にグラスウール製吸音材の飛散への影響が無ければ法令上も問題無いという、誤った法令の理解。認証試験において試験結果への影響だけでなく、試験プロセスも含めた遵法性が重要であることの認識の不足。試験プロセスの遵法性を担保するための方法やプロセスごとの責任所在に不明確な部分があったことで、適切な確認が行われず、試験実施部門の誤った判断を発見できていなかったとしている。
警音器の音圧試験では、認証申請にかかわる法令やルールについて、社内展開が正確にできていなかったこと。結果、申請方法のルールについて十分に理解をしないまま誤った申請を行っていたとしている。
再発防止策として、試験規程において認証業務と開発業務を明確に区別する。認証業務の遵法性の担保と維持のために、試験プロセスの重要性と留意事項等を継続的に教育する。認証部門を明確に責任部署と定めて、試験プロセスの遵法性を担保する。認証業務および開発業務において管理すべき項目について、抜け漏れなく記録を残す仕組みづくりをした上で、社内記録と申請書類の整合性およびその遵法性を確認する。申請書類と社内報告書の部内確認を行う仕組みを作り、形式的な単純照合作業とならないように作成者と承認者が相互に牽制を効かせた実効性のあるチェックを行う。認証試験用車両のコンディショニングについて、社内の法令解釈を明確にした上で規定化して周知する。法令等によって求められる認証申請に必要な手順について、抜け漏れなく社内規定に展開する仕組みを構築するという。