ホンダが二輪車の交通安全への取り組みを、従来の安全運転教育にデジタル技術を組み合わせた形へと広げている。9月にはUber Eats Japanと共同で、二輪配達パートナーを対象に「二輪安全運転診断アプリ」を活用した実証実験を開始。運転行動をデータで可視化し、インセンティブと組み合わせることで、ライダー自身の安全意識や運転行動の変化を検証する。
ホンダは1970年に安全運転普及本部を発足して以来、「人から人への手渡しの安全」「参加体験型の実践教育」を基本姿勢として交通安全啓発に取り組んできた。今回の取り組みは、こうした長年の安全教育の知見にデジタル技術を組み合わせ、より多くのライダーに安全運転を浸透させようとするもの。
実証では、スマートフォンのアプリで配達時の運転行動を分析し、アクセルやブレーキ、ステアリング操作などを「安全運転スコア」として可視化する。自身では気づきにくい運転傾向を数値で確認できるほか、スコアに応じたランキングやインセンティブも設定。単に安全運転を呼び掛けるだけでなく、運転者自身が行動を振り返り、改善につなげる仕組みを検証する。

同アプリは専用機器を必要とせず、スマートフォンのみで利用できる。二輪車はエンジンや路面状況による振動の影響から、スマートフォンだけで高精度な走行診断を行うことが容易ではないという課題がある。ホンダは車両データと統計処理を組み合わせ、二輪車特有の走行特性を考慮した車両運動データを抽出。交通教育センターのインストラクターや開発ライダーの実走行データも診断ロジックに活用している。
ホンダとUberは25年から二輪パートナーの交通安全向上で連携しており、これまでにも危険予測型の安全啓発コンテンツやオンライン講習を実施してきた。危険な交通場面を再現したシミュレーション型コンテンツは、26年5月時点で21カ国、50万人が利用している。
今回の実証では、安全教育の対象者を集めて講習を行うだけではなく、日常の走行そのものを安全教育の機会に変えようとしている点だ。配達業務のように日常的に二輪車を利用するライダーに対し、走行後に自らの運転傾向を確認させ、さらにインセンティブによって改善行動を促す。安全教育とデータ、そして利用者の行動変容を組み合わせた新しいアプローチといえる。


もっとも、今回の実証は安全意識や運転改善への効果、アプリの使い勝手などを検証する段階であり、Hondaが今後どの範囲まで二輪ライダー向けに展開するかは明らかにしていない。今後の検証結果によっては、二輪車の安全教育において、デジタルを活用した「継続的な運転診断」という新たな手法が広がる可能性もある。
Hondaは2030年に二輪車・四輪車が関与する交通事故死者数を2020年比で半減、2050年には交通事故死者ゼロという目標を掲げる。長年培ってきた安全教育をデジタル技術によって拡張し、より多くのライダーの行動変容につなげられるか。今回のUber Eatsとの実証は、Hondaの安全戦略におけるデジタル活用の一つの試金石となりそうだ。




