本業の不動産管理事業も手掛けながらアメリカンモーターサイクルのディーラーとして昨年4月、店舗を開店したのは「インディアンモーターサイクル千葉」を運営する阿部喜一・社長だ。バイク販売店の開業の多くは、バイク好が高じて販売店スタッフとして経験を積んだ後、独立して店舗を構えるケースが多い。阿部社長に異業種からバイク事業を始めた理由や経緯、今後の展開などを聞いた。
―—異業種から、さらにはバイク販売の経験がない状態でバイクディーラーを始めた理由は。
「私は元々東京・世田谷にあるインディアンモーターサイクル東京のユーザーでしたが、千葉県の船橋から世田谷まで渋滞の中を片道約50Kmはなかなか苦痛なもので、当時から千葉にインディアンMCの出店を要望しており、可能であればポラリスジャパンを紹介してほしいと冗談半分で伝えておりました。
その一方で、同時期に趣味の古いアメ車(アメリカ車)のガレージを造るため、土地を探しておりましてそのガレージでビンテージインディアンを趣味程度に販売することも検討していました。土地を物色していると知人より良い場所が空いていると連絡があり、土地購入を進めている時に、インディアンMC東京の店長さんよりインディアンMC輸入元のポラリスジャパンさんを紹介してもらうという流れになりディーラー開業の話がすすみだしました。
インディアンディーラー開業となるとガレージ用の土地では手狭と判断し、他の土地を探しはじめ現在の場所を見つけました。購入後に知ったのですが実はこの土地、私の父(設計士)が設計した店舗あった土地で、土地を管理している不動産業者や仲介に入っていただいた方も全て父の知り合いの方でした。うまく表現できませんが、偶然とはいえ亡き父とその関係者の方々のおかげで話がまとまったことに対しては感慨深いものがあり、ここでやるしかないという気持ちになりました。
また、生前の父のことばで『仕事は人からもらうものじゃない、自分で作るものだ』と言われてきたことも背中を押した理由となっています」
―—インディアンMCユーザーから、逆に販売する立場に逆転。苦労は。
「先代(父)の本業の建設設計は長期的な仕事が多く、着手金、中間金、竣工後の残金受け取りという流れで、立替金が多く発生する業種のため会社負担が大きく苦しい思いを多々しておりました。そんな中、現金化の早い事業として飲食店を展開した時期がありました。私はそうした事業の運営にかかわってきたことと、若いころにカスタムビートル店に勤めていたこともあり接客についての不安感はありませんでした。
しかし、ユーザーから販売する側になるということは当然販売計画やその他に経営に関する知識が必要になります。自分の描く販売計画と仕入(輸入)の状況がアメリカと折り合わないことや、その他部品の仕入れにかかる時間など、現実はそれなりに厳しいものがありました。もう一つはインディアンモーターサイクルの知名度ですね。ある程度予想はしていましたが、予想より知名度がまだ低く、これをどうしたらメジャーになれるのか試行錯誤中です」
―—店舗運営には認証工場の取得など、法的に必要事項が多々あります。
「実は20代の頃にワーゲンビートルのカスタムショップで働いた経験があり、当時より顔見しりでその後、自分の四輪車の車検などもお願いしていた地元で長く自動車整備関係のある社長に、いろいろ教授してもらいました。インディアンMC店舗開設について相談したら、自動車整備振興会の存在を教えてくれ、その後振興会の方が来てくれ、会員になり認証工場の件や整備関係で詳しく教えてもらいました。
また、ETCについてはいろいろ調べて千葉オートバイ事業協同組合がETC車載器のセットアップを行っていることを知り組合へ入る運びとなりました。一方で施工店になるため自動車関係の商工会などでも話を進めセットアップ店についての話が進みました。とにかくありとあらゆるウェブサイトで調べ、知人に聞きまくり現在に至っています。
中古バイクの相場を知るためなどオークションへの入会、インディアンMCの陸送などの業務関係、認証工場の取得の必要性もメーカーサイドに教えてもらいました。ようやく落ち着きましたが、まだまだヨチヨチ歩きです。
メカニックについては、以前お世話になっていた業者の方にご紹介いただきました。偶然にも以前米国車ディーラーのメカニックであったことを知り、現在は当店で働いてくれています」
―—この1年半、実際に店舗を運営して思う事は。
「年間では60台近く販売したいところですが、アメリカンのお客様の層は年齢などで幅が広く応対などで難しいところがあります。だた、最近では当店の存在を知るお客様が広がり、店舗の立地から東東京地区や茨城、埼玉、福島から来店されるお客様もいらっしゃいます。県内では東は銚子、南は房総半島寄りの君津や木更津などから有料道路の京葉道路を使って来店頂いており、大変ありがたいと思っています」
―—今後の展開や課題はついては。また、どの様な店にしたいのか。
「課題だらけです。とは言え、県内で試乗会などのイベントを企画していきたいと考えています。これを皮切りにお客様にインディアンMCの魅力を広め、来店に発展させたいと思います。お客様の中には来店されても、かたくなに車両にまたがらない方いらっしゃいます。またがることで欲求を抑えられなくなることをご自分で理解しているのでしょう。こうしたお客様向けに試乗機会が提供できればと思います。
ツーリング企画も考えていますが、遠方のお客様いらっしゃりツーリング先によっては、お客様のご自宅近くになりかねませんので、ツーリング先は慎重に決めたいと思います。今は栃木県の那須方面で企画を考えています。
また、店については、多くの方が印象を持つバイク屋のイメージにはしないようにしたいと思っています。ガレージ風に以前働いたビートルの店の様にバーのような雰囲気で、気軽に来店してもらえるアメリカのダイナーの様な店にしたいと思っています」
【取材を終えて】
近年ではメーカー系の専売店を開設するにも、まとまった資金や投資が必要になる。一方で、多くのメーカー、特に輸入元各社が積極的な新規ディーラーの開設に取り組んでいるが、経済的に店舗を開設できる販売店は国産メーカーや輸入メーカーが進めすでに大方が専売店となり、二輪販売店からは出尽くしているともいえる。ただ、一方で阿部社長の様に顧客から販売ディーラーを開設したいというケースにも期待できるのではないだろうか。
近年、起業意識の高まり、やりたいことを仕事にしたい、好きなものと接していたい、退職後の第二の人生、100年時代などといった社会的に意識も大きく変わり、バイク販売店を運営したいという考えのユーザーが現れても不思議ではない。こうした意欲ある顧客の発掘、支援も車両メーカー側で必要なのではないか。資金が必要なら当事者と銀行へ同行し、店舗の販売環境の分析や将来的に希望が持てる計画などの情報を銀行へ提供することで、店舗運営を希望する者への後方支援、新規の店舗開設へ前進できるのではないだろうか。