
今年、創立70周年を迎えるヤマハ発動機は2月、2025年から2027年までの「新中期経営計画」を発表した。「感動創造企業」のもと、2030年に向けた長期ビジョンへの後半6年のスタートとして位置づける。長期ビジョン「ART for Human Possibilities」(人はもっと幸せになれる)を2018 年に掲げ、新中期経営計画の基本方針を「コア事業の競争力を高め、人の可能性を拡げる新技術を獲得し、人の悦びと環境が共生する社会をヤマハ発動機らしい挑戦で実現する」としている。
新中期経営計画の基本方針と課題では、大きくは3事業に取り組む。二輪車事業・マリン事業である「コア事業」、ロボティクス事業・SPV 事業・OLV(アウトドアラウンドビークル)事業の「戦略事業」、そして「新規事業」を定めた。
「コア事業」では競争力を再強化する。二輪車事業とマリン事業へ重点的な投資を行い、魅力ある商品、サービスを提供し成長と収益性の両立を目指す。特に二輪車事業では、魅力的な商品構成として20を超える新型モデルを投入、デジタル技術を活用したユーザーサービスで強化。アセアンや新興国では、これまで注力してきたプレミアム戦略をさらに強化する。マーケティング力を強化しデジタル技術の活用とユーザーに寄り添った体験の提供により、顧客エンゲージメントを高めたい考え。電動領域は、自社でのプラットフォーム開発と外部との連携の両輪で推進していく。
二輪事業では、前中期よりも研究開発費で1.2倍、設備投資では1.4倍を投じていく。
マリン事業では、船外機大型モデルの製品構成を拡充、統合ボートビジネスの推進により、顧客価値の向上を追求していく。統合ボートビジネスでは、これまで進めてきたマリン版CASE 戦略を発展させ、次世代操船システムの導入、コネクテッド技術の活用、シェアリングシステムの提供、電動船外機の拡大など、多彩なボート体験を可能にしていく。
コア事業での研究開発費は、これまでの中期計画から750億円増額して、3年間で合計2900億円を投資する。設備投資でも、前中期計画からの760億円を増額して2340億円を投じる。
「戦略事業」では、ロボティクス事業で加速するデジタル社会と変革するモビリティを、ワンストップスマートソリューションで支えていくことで、成長と収益性を両立させる。成長する領域に経営資源を集中し、当社の強みであるワンストップスマートソリューションを進化させ、シェア向上と事業活動の効率化を目指す。
このうちSPV事業では電動アシスト自転車を通じて人々の挑戦を後押しすることで事業成長を目指す。海外完成車ビジネス事業を見直し、中長期的な成長が見込めるe-Kit ビジネスと国内完成車ビジネスに注力する。特にe-Kit ビジネスでは、徹底したユーザー視点でOEM顧客の信頼を獲得するため、ダイレクトサービス機能の強化や供給リードタイムの短縮、開発スピードの迅速化に取り取り組む。
OLV事業では、陸から海まで生涯にわたりヤマハブランドで楽しめるアウトドア商材の強みを北米市場でのシナジーを創出していくとする。OLV事業の製品の市場規模は、将来的に付加価値化が進み長期的な拡大を見込んでいる。
「新規事業」の領域では、これまで取り組んできたモビリティサービス、低速自動走行、農業・医療省人化の領域で、今後は事業拡大の可能性を見極めながら、モビリティサービス、低速自動走行、農業の3つの領域に注力していく考え。
新中期経営計画では人、技術、研究開発などに、前中期よりも1300億円上積みして4900億円を投資していく。
こうした3つの事業への資源配分、支える財務面では、売上高で年平均7%以上の成長率として、2027年には3.1兆円超えを計画。また自己資本に対する利益率(ROE)を14%、効率的に利益を上げる指標の投下資本利益率(ROIC)は8%、総資産利益率(ROA)では9%を計画。将来的には、同社が保持する全ての事業がROICで12.5%を上回る経営を目指す。
他方、環境計画では「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の面で活動におけるCO²排出量は2010 年比で74%の削減、2035年にカーボンニュートラルを目指す。資源循環では2050年までにサステナブル原材料使用比率100%を目指し、新中期では現状の14%から18%に引き上げる。生物多様性では生態系と人間の双方に利益をもたらす課題解決方法を探求していくという。
人的資本経営については、グローバルエンゲージメント指標を導入し、高いレベルを維持していく。DE&I の推進に加え、タレントマネジメントではグローバル人財プログラムを拡充する。社員の多様性を生かしチャレンジの機会を得ることで、個人と会社が成長し未来を切り開いていける組織を目指す。コンプライアンスの分野では、経営の強化を重要な方針として位置づけGlobal、Integrated、Agile の三つを柱に、経営・事業に想定されるリスクを特定し、適切にコントロール。これらを通じて環境の変化を素早く捉え、責任と権限のグローバル化を図る経営をさらに促進していく。