表面的な販売台数の増加が、オートバイディーラーにとってイコール好調とは限らない。日本国内で販売台数が一見低調に推移するドゥカティではあるものの、一部のドゥカティ・ディーラーを除いて、比較的に収益性、運営が良好な状態とするディーラーが目立っている。販売台数以上にドゥカティ・ディーラーの収益が良いとする背景を取材した。
日本国内における近年のドゥカティの販売台数(日本自動車輸入組合)は、2022年が1978台、2023年は2215台、2024年1~11月までの累計台数では1732台で推移する。これに対し他の主要メーカーはハーレーダビッドソンの2024年11月までの累計台数は8000台強、BMWが5000台強、トライアンフは約4500台でドゥカティを遥かに上回っている。
◆顧客・ディーラーの「ロイヤリティ高い」 グッドウッド二輪商会㈱/関口敏晴・社長
同ディーラーは複数の輸入車ディーラーとして展開し、このうちドゥカティティは「ドゥカティ東京ベイ」「ドゥカティ松戸」の2店舗を運営。同ディーラーの関口社長は、ドゥカティ店舗の運営状態は同社の他ブランドの店舗よりも「比較的に効率よく収益性も高く、ブランドロイヤリティが高い。メーカーの方針からも今後に期待ができる」などと期待を寄せている。
先ごろイタリアのドゥカティ社のクラウディオ・ドメニカーリCEOの会見映像を見たとする関口社長は「ドゥカティ社は、20万台を販売する大量生産ブランドではない。そのため、数(台数)だけを追っていません。モトGPなどのレースへの情熱的な取り組みなど、単にオートバイを製造するブランドではなく、「ドゥカティスティとしてのライフスタイル」を売る企業だと思っています」などと本国の方針に触れる。グッドウッド二輪商会は「1989年よりドゥカティ取り扱いを始めていますが、当時から比べてリコールやワランティ関連での改修は目を見張るほどに減少しています。また、品質の向上やモデル構成、価格設定などで輸入車では最も安定してバランスに優れています」と述べる。
ドゥカティ社の経営状態を取り上げ「製品カテゴリーや派生モデルも広がりを見せていますが、昨年の世界販売台数は中国市場の影響を受け減少したようです。しかし、原材料が上がっても製品単価を適切に引き上げているため、利益がしっかり出ているということですので、そうした経営状況からみて、私どもディーラーは安心してドゥカティへ投資ができます」としている。
モデル構成では「ハイエンドなスーパーバイク・ユーザーより高い支持を集めており、新型パニガーレV4の価格は約400万円を超えますが、購入希望者も少なくありません。さらに限定モデルなど、ブランドロイヤリティが高いモデルが用意され、誰もがご購入いただけないモデルも販売されるようになりました」
「一方、日本市場での国産競合モデルの価格帯で、ビギナーにもフレンドリーな先日発表された新型パニガーレV2は、120馬力の新型エンジンで車両も軽量です。四輪でいうライトウェイトスポーツといった印象で、存分にエンジンを回して楽しめるモデルでしょう。さらに価格も200万円前半が予想され、若年からベテランライダーまで、多くのお客様からの期待が予想以上に高まっています」と多くのユーザーが手にできる製品も用意され、ドゥカティ社のモデルや価格戦略が、ディーラーとして将来性を高められる販売戦略も強調する。
ドゥカティは「デザインに優れスタイリングが美しくパフォーマンスも高いため、所有する満足も格段に高い。技術的な進歩も目に見えて高いことがわかるブランドです」と魅力を述べる。同時に、アパレルについても「安全性が高いジャケットや、より被り心地がよく品質の高いヘルメットを求めるお客様も増えています。そこに合わせた商品ラインナップを提供してくれています」と、用品でも収益につながることを挙げている。
さらに、本国の数だけを追わない方針の下で、日本法人のドゥカティジャパンについても「市場に対して過度な車両卸は抑えているので、ディーラーとして高い目標をクリアしていくためには私どもディーラーが積極的な販売ができるかどうかがポイントでしょう。つまり、ドゥカティは大量生産、過度な在庫を避けているようですので、ディーラー自身で事前にしっかりオーダーを入れておかないと、販売計画の組み立てが難しいというところだと思います。先のコロナによる減産を経て、2024年は主に既存モデルの販売、2025年は魅力的な新型モデルの発売が控え、これまで以上に安定した販売が望めます」などとしており、適正な利潤が確保されていることを示唆する。
関口社長は、ディーラー運営に大きく影響することについては「本国のトップでしょう」述べる。ドメニカーリCEOはフレンドリーで、「私どもディーラーと直接コミュニケーションを頻繁に行っています」。また、自らサーキットではコーナーを攻める走りで、モトGPではヨーロッパラウンドは必ずと言っていいほどTV映像に映りこんでおり、バイク好きのCEOとしている。「サーキットなどでバイクを楽しんでいるメーカーのトップは経営での視点でも現場主義なのでしょう」と、ホンダ創業者の本田宗一郎氏やトヨタの豊田章男・会長など自らがレースや走り好きなことを例に挙げる。こうした姿勢は社内スタッフ、関係者、ディーラーも士気が高まるなどとしている。
◆「適正超える供給は行わない」 ドカティジャパン/リンドストレーム社長
ドゥカティ・ディーラーの収益性が比較的に良好な背景、理由について、本サイトではドゥカティジャパンのマッツ・リンドストレーム社長を取材した。
他メーカーは需要やディーラーの販売能力を超えるほど、多くの車両を卸している状況が店頭に在庫としてあらわれていることについて尋ねると、リンドストレーム社長は「販売台数からもわかる通り、ドゥカティは他メーカーに比べ、ディーラーに提供する人気車両の供給台数は多くはない。ただ、他ブランドと比較して現在の状況を好意的に捉えているディーラーは多い」としている。また、同社は「メーカーがディーラーに過剰な台数を卸して、在庫が増え値引き販売や不必要な自社登録がおこるようなことがないよう、在庫のコントロールに腐心している」と強調している。
「そうした状況を回避するために2年前のインタビューでもお伝えしているが、ドゥカティの製品に見合った価値を顧客接点となるディーラー店頭で提供できるように、ハードウェアそしてソフトウェア両面でのアップグレードに継続して取り組んでいます」
「ドゥカティ本社は『Raise The Bar(全てにおいて基準をこれまで以上に引き上げていく)』というグローバル戦略を打ち出し、お客様が心地よくお過ごしいただけるよう、店舗についてはリニューアル、そしてドゥカティのブランドをお客様にお届けするセールススタッフには、ベーシックなトレーニングから店長向けのトレーニングまで幅広く提供しています」と語る。
同社ではディーラーの収益性が比較的に良好とする一例として「販売店からの申し出による投資案件が多いことはありがたい」とも強調する。
メーカーはディーラーに車両を卸した段階で売上と利益が確保できるが、ディーラーは入荷した車両を販売することで利益が生まれる。しかし、ディーラーでは需要や販売能力を超えて在庫を抱えることで、早期の現金化に働き利益を削り、メーカー希望価格よりも実売価格を下げた値引き販売が行われるようになる。この状態がディーラー間で蔓延すると値引き販売、価格競争に陥る。メーカーもディーラーも利益を上げていかねば、ユーザーに良い製品やサービスが提供できなくなるため重要な要素だということだ。
価格競争はブランドのすべてを破壊するといえなくない。ブランド価値を落とし、ディーラーの質も低下、中古車市場でも値が付かず査定評価が高い良質車両が横行するため、購入者は新車を買わずに中古車の購入に走りだし、新車販売に影響することになる。その結果、メーカーもディーラーも収益性が悪化し、負の連鎖に陥る。
コロナ以降、販売台数が他メーカーに比べ多いとはいえないが、同社では「ブランドとして市場へのインパクトは弱くみられがちだが、メーカーの立場では、供給よりも需要がやや高い状態が理想。それでも現在のドゥカティは供給台数がやや少ない状態で、もう少し車両在庫があっても、需要を超える状態にはならない」と需要が高い状態がコロナ以降続いていることを指摘する。
多くのメーカーは、コロナ後に生産が徐々に拡大したものの、市場では製品によっては在庫が増えたことで、ディーラー店頭でも在庫が拡大し、値引き販売が再び行われている。これにより販売台数も高まり表面上は良好にみられるが、同社では「良い状況とは見ていない。ディーラーもしっかり利益を上げなければならない」と、販売台数だけに捉われていないことを示す。
同社では「比較的に収益が良好なディーラーの割合は多い。ドゥカティユーザーは、極端な富裕層ではないが、比較的に経済的に余裕がある層が中心となっている。ユーザーは高い品質と付加価値があれば買ってもらえる。主力のスーパーバイクの旗艦モデルが明確で印象も集中しており、流通台数が限られ、価格帯も一定のレベルにあるため、購入者も比較的に経済面で余裕があるユーザー限られる」などと値引きせずにディーラーが販売できている要因の一つとしている。
また、正規ディーラーネットワーク以外のオートバイ店が、正規販売網店と同じ製品を販売する光景については「メーカーやユーザーにとってはプラスにならない。そこではメーカーとしてのブランド体験や販売責任、信頼、安心、アフターサービスなどをユーザーに提供できない」などと、ブランドの重要性を挙げる。正規ディーラーネットワーク以外の販売では、製品をユーザーに提供する「モノ」の提供にとどまり、無形な価値や安心などを提供することができないということだ。
ドゥカティ・ディーラーは「現在、全国各地に45拠点あり、収益性ではばらつきがないわけではない。販売や収益性が高いとはいえないディーラーには必ず理由があり、『なぜか?』をディーラーと個別に協議している」とディーラーとのコミュニケーションの重要性を挙げる。
一方で、同社はディーラー対象に各種トレ―ニングを実施しており、技術分野でのアフターサービス・トレーニングをはじめ、セールス分野では小売店としての基礎である来店者へのあいさつから、商談についてのロールプレイ・トレーニングなどを実施。
ディーラーが良好な運営ができるのは、ブランドそのもののポジションも関係する。ドゥカティが目指すポジショニングは、ドゥカティは所有する楽しみだけではなく、『走る楽しさ』も追求しているため、よく比較される四輪車でいうフェラーリではなく、どちらかといえばポルシェに近いポジションとしている。「モーターサイクルではプレミアムのクラスではなく、ラグジュアリーとその中間にある『アッパープレミアム』というクラス。ポルシェで例えるならば911GT3もあるが、頑張れば購入可能で、日常も楽しめるマカンといったラインナップもあるといったブランド」としている。
価格帯では、円安の影響もある。物価が高騰しているインフレの状態でもあるが「先ごろ発表した最新のパニガーレV2は、リーズナブルな手が届く価格帯を予定。予想以上のオーダーがすでに入っている」とする。
一方で、ドゥカティ・スクランブラーは「多くのメーカーも同じセグメントのモデルを投入しているが、同クラスでドゥカティ・スクランブラーは価格が比較的に求めやすい価格帯としており、競合も激しい」としたうえで、「改めてフォーカスしていくモデルに挙げている。PRを継続的に取り組む。特に試乗体験の提供が重要」との考えを示している。ドゥカティ・スクランブラーは「平均40歳中から後半のユーザーが中心となっている」としており、今後は若者需要も取り込んでいきたい考えだ。
生産と需要の関係については、生産は計画通り進められるが、本社とディーラーの中間であるドゥカティジャパンが一定の在庫を確保して需要とディーラーとのクッションの役割を担う。イタリア本社では各市場のオーダーを受けて生産。ディーラーと販売状況を頻繁に話し合い、本社へオーダーしている。
本社のドメニカーリCEOも頻繁にディーラーの意見を直接聞き、情報交換を行い市場の状況に敏感であるとしており、こうした習慣がドゥカティにはあるとしている。需要と供給では適正な在庫バランスに注意を払っている。本当のディーラーとのウィンウィン、コミュニケーションの重要性を挙げる。
一方で、成長のためには新規需要を増やすことで、需要が高い状態を作る必要もある。これについては、モデルにより異なるが、新規のユーザーは販売台数のうち60%を超えているとしている。ドゥカティユーザーはブランド、商品に対する愛着や忠誠心であるロイヤリティが高いユーザーが比較的に多く、新規ユーザーのロイヤリティを高めていく必要があるなどと言及している。
ドゥカティは主要な他メーカーに比べて販売台数が多いとはいえないものの、市場の需要よりもディーラーへの卸台数がやや少ない状態にあることで、ディーラーは台当たりで適切な利潤を得ながら販売できる状態が続いている。結果的にお客様のロイヤリティが高く満足してもらえ、メーカーもディーラーも確実に収益が確保され、3者での良好な状態が浮かび上がる。