社会はコロナと経済活動の共存に向けて動きだした。オートバイ業界も販売増加が続き、今年も需要が活発だ。一方では、いまだに製品生産の遅れ、輸送費の高騰、さらにロシアとウクライナの問題で一層の原材料の高騰や物価も上昇し、複雑な販売環境にある。こうした中、KTM Japanのオリバー・ゴーリング社長が本サイトの取材に応じ、戦略や施策などについて語った。(鈴木香)
――昨今のオートバイ市場をどの様に分析していますか。
「数年ぶりに上昇傾向を示し、今後もしばらくは今の状況が続くと予想します。ただ、今は伸びてはいるが、世界的な経済状況をみると、何らかの影響がでてくるでしょう。特に各国でインフレが進行し、なおかつ為替問題も重なり、日本だけではなく世界的にも現在の成長基調がクールダウンしてくるのではないかと考えています」
「また、世界的なインフレは日本にも影響を及ぼすでしょう。日本のモーターサイクルユーザーも購買行動に踏み切りづらくなるといった、兆候が見られるのではないかと考えています。日本市場では、おそらく年内は、今の状況が続くとみていますが、2023年頃からはクールダウンすると思われます。どの程度下がるのか予想はできません」
――コロナで二輪車の免許取得者が増加しましたが、経済状況を視ると懸念も残ります。この2つの要素からどの様に影響し合うと考えていますか。
「先行きが読めないところですが、恐らくは経済が後退すれば、免許所得者も間違いなく低迷するでしょう。ただ、免許取得者数というよりも、密を避けたいと考えるユーザーの心理的なところもあるので下げ幅を緩和してくれるのではないかと推測しています」
――現在も多くのメーカーが半導体不足などで生産が遅延。KTMも生産の遅延による影響と、今年の日本での販売が伸び悩んでいることが関係しているのでしょうか。
「世界的にサプライチェーンの問題は、どこのメーカーも避けられません。我々も同様です。生産の遅延は半導体のほかにも、例えば中国でのロックダウンや海外輸送コンテナの確保など、サプライチェーン全体が混乱しています。こうした状況で、実際にモーターサイクル市場は供給以上に市場からの需要が高い状態にあり、非常にもどかしさを感じています。
日本での販売の伸び悩みは、そうした生産と物流などの環境に大きく影響しています。400cc未満のストリートモデルは、主にインドから輸出されています。特に主力の390デュークが、今シーズンのスタート段階で入荷できずにいた影響が響いています。今年後半に向けてできる限りリカバリーしていきたいと考えています」
――販売の一方では、ディーラーの基準見直しなどに取り組んでいると聞きます。
「進捗状況は非常にうまく進んでいます。現在の販売ネットワーク(6月16日現在)は、KTMが42拠点、ハスクバーナ・モーターサイクルズは27拠点、GASGASが10拠点、WP SUSPENSIONが14拠点です。
現在は、ディーラーレベルの底上げに取り組んでいます。お客様がプレミアムな体験ができる場として重点を置き、モノを買うというよりもブランドの世界観、くつろぎや快適などといった『体験』する場を提供していく方針です。我々の考えるプレミアムとは、様々なモノ、コトのバランスの組み合わせです。例えば、規模が大きくても内容が薄いものでは困ります。適切なスペースにバイク、パーツ、アパレル、アクセサリーなどが充実していて、お客様に様々な面でブランドを体感できるものと考えています」
――先行きの見通しが困難な中での販売戦略は。
「すでに取り組みを開始していますが、お客様が購入される場所『ポイント・オブ・セールス』であるディーラーがエクスクルーシブな環境であるように整備することです。先にも挙げた、お客様がブランドを『体感できる場を増強』していくことを柱としています」
――体感の提供の一環では、イベント開催も重要になります。
「コロナによりイベント開催を自粛してきましたが、今後はこれまで以上に展開していきます。お客様が製品などに触れて体感してもらう機会となります。KTMジャパンは丁度、今年6月で設立20周年を迎え6月18日に箱根でお客様向けのイベントを開催。秋はMotoGPの会場への出展のほか、多数の試乗イベントなども展開していく予定です。特にイベント開催は、ブランドごとに哲学や方針が異なるため、イベントに至ってもブランド別に開催し、ブランドメッセージの発信が必要です。
また、イベント以外の施策では、昨年10月に導入した試乗予約のデジタル化です。試乗予約システム『ブック・ア・テスト・ライド』をKTMとハスクバーナ・モーターサイクルズで運用を始めました。お客様が店舗ではなく、スマホなどの端末から事前に、ご希望の試乗車を確認して予約を行えるようにしました」
――製品では主力のオフロードセグメントで、他社も積極的に充実。将来的にオフロード分野でしか成長が見込めないのでしょうか。
「他社のオフロードへの参入は歓迎です。競争になればお客様から注目してもらえ、互いに成長できると考えています。また、オフロード分野だけしか今後成長が見込めないということでもないと思っています。スポーツやツアラー、ストリートなど各セグメントも、まだまだ成長の可能性があります」
――昨今のセグメントでの販売の割合は。また、今年の販売台数の見込みは。
「ストリートモデルが全体の7~7.5割で、オフロードモデルは3~2.5割となっています。また、今年の販売台数は先にも挙げましたが、先行きが非常に見通しづらく、生産や入荷状況に大きく影響するでしょう。実際に製品が滞れば施策の打ちようもありません。日本市場ではこれまで12年間連続して成長しているため、今後も成長を持続させたいと考えています」