新型コロナが国内の経済や社会、生活に大きく変化をもたらしてきた。経営環境の変化に対し、オートバイ関連企業にも変化を強いられる。こうした中でオートバイ流通新聞では、オートバイ関連の総合パーツメーカーである株式会社キジマの木嶋孝一・社長に、市場や社内体制などについての考えや変化について聞いた。(鈴木香)
――市場の変化をどの様に捉えていますか。
「ユーザー側では、外出を控え時間的に余裕ができて生活の足元を見直す時間がつくれたことで、昔からオートバイにあこがれていた人が乗り出した。密にならずに行動できる乗り物としても見直され、結果的にオートバイ需要が高まりました。コロナ以前はオートバイ業界全体が、若者を中心とした需要の創造でうまく進まず、もがいていた感が強かったが、コロナで男女、広い世代でオートバイ需要が増えました。
ただ、オートバイ人口が増加したが、今後いまの状況に頼り放置してよいわけではありません。ユーザー人口が増えた今だからこそ、本当の意味でのバイクの安全な楽しみ方を、どれだけ提唱できるのかが重要と考えます。ユーザーの人口が増えることで、実際に事故も比例して増えているでしょうが、そうしたところで我々オートバイ業界関係者がいかに安全で楽しく乗ってもらうための環境づくりやライディング教育などで、交通ルールなどをしっかり理解してもらえ、楽しんでもらうことでオートバイ文化が育つのだと思います。オートバイ人口の増加を機会に、新規ユーザーが定着されればと思い、私どもも取り組んでいます。
その一つが、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を中心にしたデジタルコミュニケーションツールの活用です。実際にSNSで出会ったユーザー同志が交流する機会も多くみられ、SNSなどのネットとツーリングなどの個別のイベントでのリアルが活発になって、こうしたオートバイを通じての小さな交流が活性化していて、以前とはそれぞれの楽しみ方やイベントの有り方も変化してきていると感じています」
――市場変化に対し、社内体制での変化や変更したことは。
「当社は今年で創業64年目になります。総合的にオートバイ関連のモノであれば、数々の商品を開発、生産していこうという考えで、パーツやウェア、小物などを時代に合わせて作ってきました。コロナであっても需要が見込める商品を提供するなどで、身軽に動きほぼ全商品の販売数量が軒並み伸びました。ただ、販売店様ではもっと商品が納入されれば『もっと売れたのに』などといわれますが、商品を用意できない状態で嬉しくもあり残念なところでもあります。
しかし、今の需要が高まった状態のうちに、次の手を考える必要があります。今は放っておいても売れますが、市場がいつ落ち込むか分かりません。今まで以上にお客様に購入してもらえるような努力が必要です。今のうちに自分たちの力で売り上げを作れる体制にすることが重要です。今であれば多少の失敗もできるので、今のうちに危機に備えてチャレンジの繰り返しが必要です。
そうした考えを踏まえ、現在の生産ラインが大変になっています。コロナまん延の初期の2020年頃は、生産ライン確保に追われながらも、部品材料や製品が回っていましたが、今年に入って今度は製品の材料の入荷がうまく回らなくなり、生産が計画通りに進まず、販売店様からお叱りを頂くことも少なくありません。材料の入荷予定が見込めず、販売店様などへも納入予定の提示が困難な状態でもあります。
私どもでは海外生産よりも国内生産の割合が多いのですが、需要が拡大している状態で工場の生産能力が限られるため、従来の工場のほかに別の委託先工場へも分散して臨機応変に対応しています。
生産では電子系商品が近年増え、こうした商品は海外企業と連携して生産が多くなっています。主力の金属系のハードパーツなどは国内生産が中心となります。海外生産では主に台湾をはじめ一部が中国です。海外と国内の生産割合では、これまで国内が6に対し海外が4であったが、電子系の商品が増えた分5対5といった状態です。
こうしたことから次の準備が必要です。ユーザーが何を必要としているのかをみながら準備していきたいと考えています」
――出荷体制についての取り組みは。
「社内全体に関わりますが、効率的に物事を的確に伝えられるかを徹底していきたいと考えています。当社の主な部門は企画、開発、営業、調達、生産、出荷が挙げられます。特に生産から出荷の部門は効率を高めることが重要と考えています。コロナ前は月曜から水曜は比較的に落ち着いて作業ができましたが、現在は月曜からフル稼働になっています。
ただ、生産状況の都合もあり、出荷のタイミングも変わり、出荷のタイミングを見極めながら作業を行っています。それにより商品の保管庫の空きや配送などのタイミングも重要になってきています。
現在、生産や倉庫と出荷作業は東京の足立区のみで、手狭なため倉庫を地方に移転という考えもあるが、納入先の中心は都内、関東の割合が高く、やはり都内に物流拠点は置いていたいと考えています。ただ、現在の倉庫が4階建てでスタッフも高齢化が進むなど、倉庫や出荷体制を改善していきたいと考えています。同時に若いスタッフの追加で人材を募っているところでもあります。
他方では、ユーザー人口が増え事故も少なくありません。オートバイ初心者や家族などに悲しい思いをさせたくありません。私どもではこうしたところでもしっかり学び、この一環で車両をしっかり整備するところも初心者に提言しながら、車両を安全に乗るための基本機能などで整備に役立つ商品なども提供しています。例えば、簡単にタイヤに空気を入れられる電動空気入れなどが挙げられます。安全に乗って頂くために、車両の基本的な整備を呼びかける活動もSNSで常に情報を発信しています。
また、情勢により生産が遅延する商品もあれば、現在在庫が十分に確保できる商品もあります。営業では在庫がある商品を、いかにスムーズに提供することができるかも重要です」
――先の出荷体制の改善のほかに、今後の課題としては。
「今のうちにしっかりした社内体制をつくっていきたいと考えています。そして、当社の理念として『感動と活力のキジマ』と掲げ、商品を通じてお客様に喜んでもらうことが何よりです。そのお客様の喜びが、私たちの活力になり、この循環で発展していきたいと考えています。決して独りよがりではなく、信頼ある品質、商品力、供給体制も含めて整わなければ喜びにつながりません。
実際に昨年から徐々に供給体制を強化しているので、先に挙げた物流分野でも、キジマとして当たり前のことで質を上げ、しっかりと取り組んでいきたいと考えています」